心はやさしく 言葉は美しく

暮らしの中からやさしさと美しさをみつけてゆきます


暮らしの中には美しいことがたくさんあって…でも大方は一人でその時をやり過ごしてしまう。誰かに話したくなっても機会がないままに過ぎていく。

それは いつものことだから…

 

  いつもと同じ

 

夕飯はいらないよ

夫のひとことに胸の内がこおどりする

いつもと同じ顔でイッテラッシャイと送る

さあ 食器を洗おう掃除をしよう

洗濯物を干す布団を干す

くるくるうごくうごく

いつもより頑張ってうごく

 

いつもなら昼の仕事が片付くと

夕方の仕事が始まる

けれど今日はちがう

今日の午後は私のもの

その気持ちお見通しと

洗濯物も風に小躍りする

干した物は乾いてたたんで

掃除機も早目にひっこんで

それもこれも済んだ終った

今日こそ毛布にくるまって本を読む

そのうちとろとろ眠くなって

長い午後に浸ろう

ガラス戸をしめてカーテンをとじて

ひっそりと午後は立ち止まったままだ

 

どれくらい陽はかたむいたのか

カーテンのすきまから

床に這う西陽のすじをたどる

部屋の隅がもやもやしてきた

こうしてはいられない

もやもやが闇になってふえて

さみしくなりそうだ

 

毛布をはねのけ起き上がらなくては

灯りを点けなくては

台所の蛍光灯がぱちんと目をさました

ぱちんぱちんぱちん

まな板も蛇口もシンクも

カゴにあげたちゃわんも目を覚ました

 

夕闇が側に寄ってこないように

お湯を沸かしてゆげをのぼらせよう

やさいを洗えば水は賑やかに踊る

やさいを刻めばまな板はいい音で鳴る

とんとととんとと歌って

鍋の豚汁がおいしいにおいになる

ここまでくればだいじょうぶ

凍えた手で帰る夫を待てばいい

いつもと同じ夜がきた

 

   最後までお読みいただきありがとうございました。

   結局は幸せや安心はこんなところでした。